研究

はじめに


さまざまな機能を持つ分子を組み合わせて、新しい電子的・光学的機能を有する素子を構築する研究を展開しています。素子の高性能化には、(1)分子と電極との接続(キャリア注入機構の問題)および(2)分子と分子の接続(キャリア輸送機構の問題)を分子レベルで解明し制御する必要があります。我々のグループでは、薄膜デバイスからナノデバイスをターゲットとし、最先端の解析技術を駆使してこれらの問題解決に取り組み、新しい分子素子の構築と新しい学問領域の創成を目指しています。

研究紹介 PDF冊子

プロジェクト例


発光有機トランジスターの作製と動作機構の解明
1
有機半導体は基本的に「真性」であり、素子の構造を工夫し、条件を選ぶと、正孔と電子を同時に半導体の中に注入することができます。注入された正負キャリアは再結合し、発光を観察することができます。有機トランジスターの持つスイッチング特性に発光機能を持たせることで、新しいディスプレイやレーザー素子の開発が期待されています。また、発光を観察することにより、トランジスター内でのキャリアの振る舞いを解明することができます。
“Visible Light Emission from Polymer-based Field-effect Transistors”, Appl. Phys. Lett., 84,3037-3039,2004. link
有機半導体素子の 1/f ノイズの計測と制御
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身の回りには、数多くの種類のノイズが存在しますが、中でも、ノイズの大きさがその周波数の逆数に比例する 1/f ノイズ(1/f ゆらぎ)は、小川のせせらぎや歌手の歌声などにも含まれ、人に心地よさを与えると考えられています。電子部品にもこの1/f ノイズが存在しますが、その起源は、まだ未解明の部分が多く残されています。有機半導体素子における1/fゆらぎを考察し、さらにはそれを制御することで、新しいセンサーや演算素子への可能性を探ります。
有機材料におけるスピン依存伝導の考察
3
有機材料は、炭素や窒素などの軽元素で構成されるためスピン軌道相互作用が小さく、スピンの輸送能力が高いことが期待されています。我々は、ペンタセンやフタロシアニンといった低分子系有機材料を用いたスピンバルブを作製し、その磁気抵抗特性から、分子軌道を介したスピン輸送が可能であることを確認しました。このことは、分子設計により、特性を制御できることを意味しています。ゲートによるスピン制御など分子スピントロニクスに関する研究を展開します。
1. “Planar-type Spin-valves Based on Low-molecular-weight Organic Materials with La0.67Sr0.33MnO3 Electrodes”, Appl. Phys. Lett. ,92,153304,2008. link
2. “Magnetoresistance of single molecular junctions measured by a mechanically controllable break junction method”, Appl. Phys. Lett.,98,053110-3,2011.
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シリコンー炭素共有結合を介した分子組織体の構築
4
シリコンと炭素は同じ4族に属し、共有結合によって熱的・化学的に安定な構造を形成することができます。シリコンテクノロジーと分子ナノテクノロジーを融合し、シリコン表面の特定の場所に分子を埋め込み、分子間の信号やエネルギーの伝達を行ったり、シリコン製の探針の先端に特定の分子のみに反応する官能基を固定し、表面の分子認識に応用します。
1. “Preparation of Amino-Terminated Monolayers via hydrolysis of Phthalimide anchored to Si (111)” , Surf.Sci.,601,5098-5102,2007.link
2. “Characterization of Molecular Assemblies on Silicon Surfaces by Attenuated Total Reflectance Infrared Spectroscopy”, Thin Solid Films ,499,8-12,2006.link
3. “Non-contact Atomic Force Microscopy Using Silicon Cantilevers Covered with Organic Monolayers via Silicon-carbon Covalent Bonds”, Nanotechnology,15,565-568,2004. .link
4. “Friction Force Microscopy Using Silicon Cantilevers Covered with Organic Monolayers via Silicon-carbon Covalent Bonds”, Appl. Phys. Lett.,83,578-580,2003.link
5. “Nanopatterning of Alkyl Monolayers Covalently Bound to Si(111) with an Atomic Force Microscope”, Appl.Phys.Lett.,80,2565-2567,2002. link
シリコンのナノギャップ電極の作製
6
分子エレクトロニクスにおいて信号の入出力を担う電極と分子の接合界面は重要な役割を持ちます。従来は、金を電極とし、親和性のよいチオール基(-SH)を末端に持つ分子を接続して素子を構築するという設計指針でしたが、安定性に不安が残ります。我々は、これに代わる界面として、熱的・化学的に安定な Si-C 共有結合の利用を検討しています。分子の電気伝導度を計測するためには、分子長さ程度の間隙を有する電極が必要ですが、ナノケミストリーを駆使して、レシピを確立しました。
“Preparation of Nanogap Electrodes of Silicon by Chemical Etching”, Mol.Cryst.Liq.Cryst.,472,63-67,2007.
シリコンナノワイヤーの作製
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バルク物質のサイズ低次元化は、新しい機能の発現が期待され、さまざまな物質のナノワイヤーあるいはナノ粒子に関する研究が行われています。半導体ナノワイヤーはドーピングによって電子状態を制御でき、新しい電子素子の構成要素として注目を集めています。我々は、Fe や Coなどをドーピングしたシリコンナノワイヤーを作製し構造解析と電気特性の計測を行うとともに、Si-C 共有結合によって表面に分子で修飾して、電気伝導度特性の制御試みています。
単一分子の電気伝導度計測
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分子1個の電気抵抗の大きさはどれくらいでしょうか?C=C 結合とC-C結合ではどちらが電気をよく流すでしょうか?そういった疑問にようやく答えを与えられるような実験技術が確立しました。さらには、電極−分子−電極結合を数秒から数十秒保持することにより、光や電場、磁場などの外部からの刺激に対して、分子の電気伝導度がどのように変化するかを調べることに挑戦します。
1. “Magnetoresistance of single molecular junctions measured by a mechanically controllable break junction method”, Appl. Phys. Lett.,98,053110-3,2011 link
2. “Electrical Resistance of Long Oligothiophene Molecules”, Appl. Phys. Express,2,025002 -3 pages,2009 link
3. “Electrical Conductance of Oligothiophene Molecular Wires “, Nano Lett. ,8,1237-1240,2008 link
ナノ配線技術の確立
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合成化学者によって、ダイオード特性を示す分子や、抵抗、コンデンサーの役割を担う分子が合成されています。実際に回路を組むためにはそれらを配線する技術が不可欠です。我々は原子間力顕微鏡の探針にさまざまな有機分子をコートし、絶縁性基板表面に転写して自在に描画する新しい技術を確立しました。この手法により、有機半導体や有機伝導体の単分子膜(2次元)やワイヤー(1次元)、ドット(0次元)を自在に配置することもできます。
“Patterning of Organic Semiconductors on Silicon Oxide Using an Atomic Force Microscope with an Alternating-Current Electric Field”, Appl. Phys. Express.,2,115001-3-pages,2009 link
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単一分子の電子状態解析
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走査トンネル顕微鏡(STM)は、探針と試料の間に流れるトンネル電流を測定しますが、その電流は、探針直下の状態密度を反映します。極低温下で安定した環境では、あたかも電子状態を断層撮影したような画像が得られます。この手法により、分子の電子状態が基板に吸着することによりどのように変化するかを議論することができます。
1.”Direct Observation of Adsorption-induced Electronics States by Low Temperature Scanning Tunneling Microscopy”, Ultramicroscopy,105,22-25,2005 link
2. “Scanning Tunneling Microscopy and Spectroscopy of Phthalocyanine Molecules on Metal Surfaces”, Jpn. J. Appl. Phys,,5332-5335,2005 link

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