http://www.jst.go.jp/pr/announce/20131225/index.html
内容抜粋
有機薄膜太陽電池がBHJにおいて光電流を生み出す仕組みを分子レベルで明らかにするため、電池材料であるフラーレン誘導体(PCBM)と共役系高分子のポリアルキルチオフェン(P3HTあるいは置換アルキル基の炭素数を12個持つP3DDT)による薄膜基板を作成し、時間分解電子スピン共鳴法による測定を行いました(図2)。
さらに、測定された電子スピン共鳴スペクトルについて、BHJにおける反応で生成する電子および正孔の外部磁場や電荷同士の磁気的相互作用によるエネルギーと、電子と正孔の電子軌道同士の重なりによって生じる相互作用エネルギー(電子的相互作用)の影響を量子論にもとづき解析しました(図2)。計算機によるシミュレーションによって実験結果を再現し(図2赤線)、その中から高効率化の仕組みを明らかにするためのパラメータである界面に生成する電荷の立体構造(図3)と電子的相互作用(図4)を決定しました。
解析の結果、BHJ界面の自己組織化により形成された高分子結晶相(図3A)において高分子アルキル基の分子揺らぎ運動(フォノン効果)が活発化することによって、正孔が電子から2ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)以上に解離する様子(図3B)を捉えることに成功しました。さらに、このフォノンと高分子結晶性の相乗効果によって、複数のポリマー鎖に渡る広範囲な電子軌道の広がりが正孔に生まれることが電子的相互作用エネルギーの解析によって明らかになりました(図4)。
これは、高分子材料の1)アルキル鎖の運動によるフォノン効果と、2)自己組織化による規則的な結晶相の形成という2つの因子が電荷の広がりと解離を引き起こし、電荷再結合による損失を抑制することで、有機薄膜太陽電池が効率的に光電流を生み出すことを示すものです。本解析によって、BHJにおける高効率な電流生成の仕組みが分子レベルで初めて明らかになりました。