2nd Seminar

第二回 ナノスケール分子デバイスセミナー

日時:2012年3月14日 13:00-17:30
会場:化学会館ホール 東京都千代田区神田駿河台1-5
参加費:無料(懇親会費は別途お支払いください)
参加申し込み方法:当日会場にて受付

プログラム

13:00-13:10  はじめに  中村
[youtube]http://youtu.be/iw-QmvWvRLE[/youtube]

13:10-13:30  金子哲(東工大D1)金属内包フラーレンCe@C82単一分子の電子輸送特性
金属内包フラーレンは球状のπ共役系に加え、内包金属に由来した特徴的な電子物性が発現する事が期待されている分子である。本研究ではCe@C82単一分子を金属電極間に架橋した単分子接合を作製し、その電子輸送特性の解明を試みた。実験は室温超高真空中でAu, Ag電極を用いて行った。Ce@C82存在下においてMCBJ法により作製した単分子接合 について、接合の電気伝導度及び電流―電圧特性をin-situで測定した。結果、Ag電極では単分子接合が形成され、0.28±0.05 G0 (G0 =2e2/h)と高い電気伝導度を示した。IV測定と第一原理計 算から、高い伝導性はLUMOとフェルミエネルギーが近接している事に由来する事が示された。更にC60との比較から、内包金属によりπ軌道の分布を変化させる事で、単分子接合の伝導度が調節できる事が示唆された。
[youtube]http://youtu.be/5nzvsVlEzIw[/youtube]
 
13:30-14:00  龍崎奏(阪大産研 助教) ナノポアデバイスを用いた1分子構造解析法の開発
1分子解析技術は、微量・高速な分析を可能にする革新技術として期待されており、世界中で厳しい研究開発競争が展開されている。この1分子解析技術を実現する代表的なデバイスとして、電解質溶液で満たされたバイオナノポアや固体ナノポアが注目を集めており、溶液中の分子がナノポアを通過することで生じるイオン電流の変化を1分子検出プローブとして用いている。本研究では、測定対象物質の平均直径よりも薄いナノポアを用いることで、ポアを流れるイオン電流の時間変化から、ポア通過物質の断層構造の定量解析が可能であることを見出した。
(講演非公開)

14:00-14:20  大戸達彦(東大D3)「非平衡NEB法による電流誘起ダイナミクスのシミュレーション」
金属電極間を架橋する分子やワイヤーに電流を流すことで、化学結合の解離などが引き起こされる。反応の引き起こされる要因としては、あるポテンシャル井戸の中での分子振動の局所加熱と、Electromigration forceによるポテンシャル面自体の変形が考えられる。非平衡NEB法は有限バイアス下での反応経路を求める方法であり、それによって上記のどちらが反応の主因であるか第一原理計算から決定することが可能である。当日は、前者の例としてMelamine/Cu(001)のSTM誘起スイッチ、後者の例としてAlワイヤーの破断のシミュレーションを紹介する。
[youtube]http://youtu.be/W1I48kPBKVE[/youtube]

14:20-14:50  南谷英美(理研PD)「分子の対称性と吸着が生み出す新奇な近藤効果」
近藤効果は分子の持つ局在スピンと金属の伝導電子の相互作用によって生じる代表的な電子相関現象である。近藤効果が存在すると、局在スピン‐伝導電子間相互作用の大きさによって決まる特徴的な温度スケール、近藤温度以下において、近藤1重項状態と呼ばれる量子多体状態が基底状態となる。近藤1重項状態が生じると、フェルミエネルギー近傍の状態密度に鋭いピークが形成されるため、電気伝導特性が大きく変化する。また、近藤1重項状態では、局在スピンが伝導電子のスピンと反強磁性的相互作用を持つため、局在スピンが遮蔽された状態になっている。ゆえに、分子磁性体における近藤効果の解明は単一分子デバイス・分子スピントロニクスデバイスへの応用に大きく寄与するものと考えられる。近年、磁性分子を金属表面に吸着させた系においても近藤効果が発現しうることが走査トンネル顕微鏡分光から確認されている。しかし分子における近藤効果の存在は、近年発見されたばかりであり、近藤効果発現のメカニズムを始め、未解決な部分が多く存在する。加えて、分子ならではの効果として、リガンドの配位子場による軌道分裂や磁気異方性、薄膜形成によるパターン創成が加わることによって、特殊な近藤効果を実現できる可能性がある。
近藤効果を生じる分子と基板の組み合わせは多数あるが、中でも、Au(111)面上の鉄フタロシアニン分子に注目した。走査トンネル分光の結果より鉄フタロシアニン分子はオントップサイトとブリッジサイトに吸着し、各吸着サイトでの近藤共鳴スペクトルが大きく異なることが判明した。第一原理計算結果と、それを基に構築したモデルハミルトニアンに対する数値くりこみ群による解析結果から、オントップとブリッジサイトでは発現する近藤効果の種類が異なることが判明した。特に、オントップサイトでは、スピンに加えて軌道の自由度が関係する珍しいタイプの近藤効果が生じていることを明らかにした。
[youtube]http://youtu.be/mJ4aedFK8Qs[/youtube]

14:50-15:10  利根紗織 (阪大M1)   嵩高い置換基によって絶縁被覆されたオリゴチオフェンの開発と被覆効果の化学的評価
オリゴチオフェンは優れた電子特性を示すため、単一分子で構成される分子エレクトロニクス素子の実現に不可欠な分子ワイヤとしての利用が期待される化合物である。その有用性の評価には、単一分子の電子・電気的な性質を明らかにすることが不可欠である。しかし、オリゴチオフェンには拡張したπ電子に由来する強い分子間π-π相互作用が生じることから、単一分子の分子ワイヤ特性を実現するためには、この相互作用の影響がない分子の開発が必要である。この目的のため、当研究室では嵩高い置換基をすべてのチオフェン環に導入することにより、分子間相互作用の阻害を目指したオリゴチオフェンの開発を行い、その被覆効果を化学的に検証した。
[youtube]http://youtu.be/eogBOoXcyqM[/youtube]

15:10-15:30 ―お茶の時間―

15:30-16:10 特別講演 渡邉 聡 教授(東大)「ナノスケール電気伝導とその周辺:計算によるアプローチの過去、現在、未来」
[youtube]http://youtu.be/ySM_8KLaDOw[/youtube]
[youtube]http://youtu.be/w2YGRa7LYsk[/youtube]

16:10-16:30 「1、4 – ベンゼンジチオール分子接合の電気伝導特性と振動スペクトル計測」松下竜二 (東工大M2) 
金電極間に作製したナノギャップに架橋した1,4‐ベンゼンジチオール(BDT)分子について、電気伝導特性と振動スペクトルの計測を行った。金ナノギャップ電極は微細加工技術とエレクトロマイグレーションを組み合わせてSi基板上に作製した。電気伝導特性から架橋分子数、接合の電子状態および電極と分子の相互作用の強さの評価を行った。ラマンスペクトル計測を行ったところ、ナノギャップ付近におけるラマンシグナル強度の増強が観測された。またバルク結晶のラマンスペクトルでは観測されない振動モードが観測されることがあった。理論計算との比較などから、分子が電極と相互作用することによってこのような振動モードが観測されたと考えられる。
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=1cyCWHBY-VQ[/youtube]

16:30-17:00 横田一道 (阪大産研 助教) 面内型グラフェンナノポアデバイスの開発
様々な一分子解析技術を生体関連分子の測定に適応することにより、その機能や構造を一分子スケールで明らかにする研究が、現在盛んに行われている。なかでも、DNAの一分子解析は、増幅などの前処理を行う事なく、高速かつ低コストに塩基配列を解読する技術として注目を集めている。本発表では、我々が研究を進めているトンネル電流検出型のナノポアデバイスについて紹介し、更なる高精度、高分解能化を目指し、極薄膜のグラフェン電極を用いる試みについて報告する。
(講演非公開)

17:00-17:20 平井大介(東大D3) 「カーボンナノチューブの交流伝導特性の理論解析」
 カーボンナノチューブ(CNT)は従来の物質と比して非常に大きなキャリア移動度をもつため、テラヘルツクラスの超高周波数信号に応答可能であることが、実験・理論の両面から示唆されている。しかし、これまで精力的に研究されてきた直流応答に比べ、交流応答の研究は遅れをとっており、未解明な問題が多く残されているのが現状であり、測定結果の十分な理解には至っていない。
 このような問題を鑑み、本研究では、CNTの電子輸送特性に多大な影響を及ぼす欠陥・不純物の交流応答への影響を理論数値解析によって調べた。その結果、交流応答を特徴付ける電流−電圧位相差の振る舞いがポテンシャル強度の大きさに依存して、質的に異なる振る舞いを示すことが分かった。また、この位相差は直流コンダクタンスの減少に伴い、誘導性から容量性へと転移を示すが、この転移点が系の詳細に依存しないことも判明した。
[youtube]http://youtu.be/h42J6uiOXXc[/youtube]

17:20-17:30  おわりに  谷口